誰も書かなかった本当の話

  • 瓶ビールの宅配は21世紀の模範的システムです。

  •  環境問題を考える上で、リサイクルの考え方は、もっとも基本的な方法として 多くの人々に認められているのですが、こと飲料容器、とりわけお酒の容器の中でも ビールの容器の世界では、リサイクルの考えによって、かえって 取り巻く環境はむしろ悪化の一途をたどっています。
     環境問題では、包括的に新しいデータを拾い集めることがなかなか困難ですが、大まかな流れの傾向を窺い知ることは容易に出来ます。平成7年(1995年)に、缶ビールは159億個生産され、105億個が空き缶として回収されました。この年の回収率は、66%ということになります。ちなみに昭和60年に30億個だった缶ビールの生産量は、61年に35億個、62年には55億個に達しています。
     言いかえれば、わずか8年前1年間の全生産量に匹敵する缶がまったく回収されず、その総量は、 確実に年々増えつづけているのです。さまざまな努力?によって回収率は徐々に向上していると多くの人は言います。回収されない絶対量がそれを上回って増加していることは、それらの人は少しも触れません。
     さらに困ったことに、缶ビールの缶は、スチール缶ではなくアルミ缶で出来ています。これは偶然そうなったのでは決してありません。明らかに完全に誤った前提に基づいて環境意識の高い消費者がまず動き、企業イメージに敏感な寡占4社が右へならえした結果に過ぎません。その結果、莫大な量のエネルギーが垂れ流しになり、リサイクルの掛け声のもと、その無駄は年々増大しているのです。
     アルミ缶1個が捨てられ回収されないと、 その缶に二分の一杯分のガソリンを地面に捨てたのと同じエネルギーの浪費になるのだそうです。 だからアルミ缶を回収しましょうという話になるのでしょうが、上のページにおいても、「日本で回収され再利用されているアルミ缶は、製造されているアルミ缶の42%にすぎません」 だそうです。いつの時点のデータか分かりませんが、ビールの空き缶の回収率のほうが少しよいようです。(と言っても、回収された空き缶が、ビールの缶であったのか、そうでないものなのかという根拠のある統計が存在するとは信じられません。考えられるのは、原材料に占める割合の中で、空き缶の再生原料をビール缶のメーカーがより多く使っている、と言うところではないかと思います。もちろん、イメージを大切にするビールメーカーの意思が缶メーカーの行動を決定しているのは言うまでもありません)
     アルミ缶スチール缶に本当の意味で優るとしたら、それは、アルミ缶が100%回収されることを前提にしての話です。リサイクル神話、もっとはっきりと幻想と言うべきでしょうか。それはここにあります。1個の空き缶から1個の製品缶を作る(再生する)にあたってアルミよりスチールのほうが加工するのによりエネルギーを消費するとは言えます。では、その空き缶は? いつもこのあたりで、なまじ環境意識の高いと自認している人たちと話が噛み合わなくなるのです。決まりきったことです。アルミのほうが、スチールよりさらにべらぼうにエネルギーを消費するのです。
     ここではっきり、とどめを刺すべきでしょう。瓶ビール空き瓶の回収率は99%に達しています。回収された空き瓶のうち不良品は厳密にチェックされ、100%再生利用されています。
     以前はほとんど問題にならなかったことが最近起こっています。廃品として回収される空き瓶が増大し、空き瓶が廃品として取り扱われる過程で手荒な扱いを受け、再利用不可能な瓶となり、結局、砕かれて処理に回されることが増えているのです。これは現代人に起こった、ひとつの物に対する感覚の、明らかに退廃の現象です。この端的な例が、空き缶のデポジット制とやらの主張です。
     缶の商品にあらかじめ10円、20円を上乗せして販売し、空き缶を返したときに、そのお金を返す というシステムです。それによって空き缶の回収率を高め、とりわけ散乱する空き缶をなくそうと言う考え方です。ずば抜けて高いビール瓶などの回収率を模倣したシステムですが、根本的に事実誤認があります。
     空き缶ゴミです。空き瓶は、空容器です。再利用できること、言い換えれば役に立つこと、そのまま使えること。空き瓶が、空き缶と違って単なるゴミでなく、空容器であるのは、それが役に立つからです。空き瓶が単なるゴミでなく空容器であるのは、5円10円で引き取ってくれるからでなく、役に立たなくなるまで使うことが出来るからです。空き瓶は、空になったからゴミになるのではなく、それがどうにも役立てようもなくなってはじめてゴミになるのです。
     さらに致命的なデポジット制の誤りは、アルミ缶などの環境に負荷の大きい容器を前提に考えていることです。ここできちんと整理してみる必要があるでしょう。アルミ缶は、製造・回収・再生の全体を見渡して、もっとも環境に負担の大きい容器です。スチール缶使い捨てのガラス瓶がこれに次ぎます。最近、急激に流行ってきたペットボトルは一部のモデルケース以外は、ほとんど回収されておらず、リサイクルすら問題外です。再利用可能なビール瓶一升瓶は、最初に作られるときこそスチール缶同様熱加工が必要ですが、繰り返し繰り返し使われる過程では、回収・洗浄・検査のプロセスで済み、余分な熱エネルギーを必要としないことです。 注:南河内町では、全国的に見てもかなり早くから、ペットボトルの回収をしてきました。ただし、ペットボトルは、回収されても、ペットボトルに再生することは出来ません。厳密に言えば、別の加工と言うべきです。全国的には、一桁台の回収率です。

     回収という過程が問題の焦点にあります。ゴミとしての空き缶は、通常、指定の日指定の時間に、指定の場所に置かれたものに限り、行政または委託された業者がそれを回収します。その仕事に従事する者の生活は保証され、その費用は税金によって賄われています。
     では、道端に、草むらに散乱する空き缶はどうでしょう。場合によっては、ごくたまに行政が回収することがあるでしょう。よく見聞するのは、休日の朝、住民総出で地域を清掃している光景です。こうして、100%には程遠い空き缶回収率は、一つには税金というコストをかけて、さらには、まったくコスト無視人海戦術によって、ようやくそこそこに達成されているのです。
     では、空き瓶はどうでしょう。新しいビールが届いた途端、酒屋さんが持って行ってしまいました。回収されたのです。回収するためにさらに新たな費用が発生することはありませんでした。
     ここでさらに、瓶ビールと缶ビールとでのコストの違いを見てみましょう。

       大瓶633ml、1本 321円
        缶350ml、1本 218円   (いずれも標準価格1999年7月現在)

          321÷0.633=507円/L    (1リットルあたりの価格)
          218÷0.350=622円/L+回収コスト(税金)+人海戦術(場合によって)

       宅配の瓶ビールと1ケースいくらの缶ビールとではどうか、実際に計算してみてください。

     通常、回収コストについては、確かにそれは掛かっているのだけれど、単純に計算が出来ず、どうでもいいことだからではなく、どう考え、どうしたらいいのかまったく分からないから意識されないのです。どう考えたらよいのでしょうか。
     ゴミになった空き缶回収は、事柄の本質上、人まかせです。ゴミになった空き缶は、指定の日の指定の時間に指定の場所に置こうと、気ままに窓から捨てようと、後は人まかせであることに少しも変わりはありません。
     空き瓶の場合はどうでしょう。再利用可能な瓶としてのビールの空き瓶は、リサイクルするのではなく、リターンするのです。売ったところから引き取ってくるのです。買ったところへ返すのです。多少の例外はあるにせよ、ビールの空き瓶99パーセント回収率であるのは、それがリサイクルしているからではまったくなく、リターンしているからなのです。

     とても大切なところにさしかかってきました。私たちは今、21世紀の私たちの生活をどうデザインするのか、そこのところに立ち至っています。瓶ビール缶ビールとでは、単に容器の材質の違いという以上に決定的なものがあります。言い換えれば、瓶ビール缶ビールとでは、まったく異なる社会・生活システムを持っているのです。

     瓶ビールの宅配システムは、この上なく環境にやさしいのです。
     量販店における缶ビール1ケースいくらの世界は、後は人まかせの世界です。

     環境にこの上なくやさしい瓶ビールの宅配システムが、21世紀の模範的なシステムとして再生するためには、より大きな社会連関の中に身を置いてみる必要があります。単に1軒の酒屋さんが生き残るためだけでなく、その酒屋さんが頑張っている地域全体の環境、そして、もちろん、物流全体を見直すこと。1本のビールが作られてから、コップに注がれて喉を潤すまで、環境にやさしい酒屋さんとしてなにをすべきなのか、しっかり突き詰めて見直すことは、必ずその役割が見直されることにつながると信じます。
    1999年8月3日 Copyright 内木 誠 NAIKI Makoto
    エコロジー試論
    http://www.naiki.gr.jp/winehomenet/work/daremo.htm (誰も書かなかった本当の話)
    戻る
    ワインホームに戻る

    再利用可能なビール瓶や一升瓶はお店に戻してください(リターン)。廃品回収やゴミに出すと(リサイクル)、再利用できなくなる可能性が高いのです。
    リンク
    ジュース缶リサイクル